ミカエル・リャブコ インタビュー 【後編】

前編と同じく「MEIBUKAN MAGAZINE No9」に掲載されたものです。翻訳&転載許可を与えてくれた執筆者のケビン・セコアーズと翻訳者のTさんに感謝です。
前編はこちら

「ミカエル・リャブコ インタビュー 後編」


Q.あなたはしばしば「システマの秘密は、それが心理的、肉体的、霊的レベルなど人間のあらゆる段階を取り扱う、まさに『システム(体系)』であることだ」とおっしゃいます。では、システマを完璧な武術であると考えるあなたの目に、それを一心に修行するのではなく、一部の概念やアイデアだけを借用しようとする人々はどのように映りますか?
A.(リンゴを手に取り、それをシャツで磨いてから)「システマは、このリンゴのようなものです。わたしは隠し立てせずに、このリンゴを世界中の人々に提供しようとしています。全部食べなさいと勧めています。このリンゴがどんなに良いかも教えています。このリンゴが私に何をしてくれたのか、リンゴを食べる人に対し何をしてくれるのかも話しています。それでもまだ一部の人は、少しだけしか齧ろうとしません。そういう人に対し、私は何ができるでしょうか?彼らは、それを選んだのです。私はと言えば、リンゴは丸ごと食べるのが好きですけどね。」(笑)


Q.ご子息が最近、以前よりも頻繁にシステマを教えるようになりました。今回のサミットにも、あなたとあなたの家族と一緒にいらしています。我々のほとんどは、彼と会うのは初めてです。あなたの歩いてきた足跡をご子息が辿るのをご覧になるのは、どんな気持ちですか?
A.「息子がシステマを練習するのは、仕事で必要だからです(ダニエル・リャブコ氏はロシア軍警察の中尉)。私や私の父のように、息子はやがて成長し、システマの本当の奥深さと重要性を知るようになるでしょう。そして同時に、システマに対する彼自身の理解も深まると思います。」


Q.システマが普及するにつれて、その質が低下することは心配ではありませんか?また、教程を規格化したり、審査基準、指導基準を設ける計画はありますか?
A.(笑いながら)「皆さん、段位やレベルなどがすごく気になるのですね。でも、システマでは、そういうものは大事ではありません。本当に大切なのは、あなたが自分自身について学び、日々より良い人間になり、自分が学んだことを周りの人々と共有することです。こうすることで、システマは自分自身を守っています。正しい人々はこれを理解し、システマに魅力を感じ、練習を続けます。悪意のある人あるいは他人を傷つけることだけを考えている人は、やがて一緒に練習をしてくれる人がいなくなってしまうでしょう。だから、上達できなくなるのです。それが自然の成り行きでしょう。」


Q.システマを一度も見たことがない人に、システマを何と説明しますか?
A.「あなたがすでに言ったように、システマはケンカや戦闘だけでなく、人間のあらゆる側面を取り扱います。また、芸術的であろうともしていません。動きがしゃれているか、美しいかどうかなど気にしません。また、誰かが決めた特定の指導法に従っているわけでもありません。システマには動きのパターンも決まった型もありません。ただ、良い動きがあるだけです。私たちは皆、異なるタイプの肉体と能力を持っているので、それぞれが表現するシステマも違ったものになります。」


Q.「システマは、あなたのおっしゃる『自然な動き』というものが基本です。多くの人はそれを、自分でする動きはどれも自然である、という意味に捉えるかもしれませんが、それはあなたが意味したことではないですよね?この点をもう少し詳しく教えて頂けますか?
A.「私たちが言う自然な動きは、人がリラックスして、緊張のない状態で出る動きを意味します。もちろん誰もが違った動き方をします。システマを練習すると、自分自身の自然な反射的動作に気付きます。まず、気付くことが最初の一歩です。そして次に、リラックスする方法を身に付けることにより、自分独自の反射的動作をより優れたものにする練習を始めます。」


Q.戦いや危機的状況でリラックスする方法を学ぶ際のカギとなる要素は何でしょうか?
A.「大切なのは、システマの基本原則です。特に、呼吸がすべての基礎です。子供の時、私たちは誰もが完璧に呼吸をする方法を知っています。が、この世に出ると、ショックやストレスと出会います。それらが私たちの呼吸する能力を奪うのです。システマでは、ストレスや恐怖に晒された状態で呼吸する方法を生徒に教えます。他の事はすべて、その後に学びます。正しい体の形と姿勢も重要です。前屈みでいたり、立ち止まっていると、体のバランスを崩し、筋肉に緊張を加え、それらの結果として、サイキ(心、気、精神)を不安定にしてしまいます。正しい姿勢とは、すべてがなすべきことをしている状態です。骨格は身体に構造を与え、筋肉はリラックスして必要な時だけ力を出し、関節は緩んで、しなやかです。
 人はしばしば呼吸を機械的なものだとみなし、胸上部や下腹部で行う呼吸法を習得します。しかし、呼吸はそれだけではなく、もっと生理学的なものなのです。呼吸をすると、血液が酸素で満たされ、力と持久力が増加します。システマでは、呼吸によりリラックスし、パワーを増強し、自分自身を癒す方法を学びます。これはとても重要です。歳をとるにつれ上達するようなトレーニングをするべきです。」


Q.システマの打撃力は非常に有名です。呼吸は、強い打撃力を養うカギですか?
A.「リラックスすることが、とても大切です。緊張や悪意、自意識は、打撃からパワーを奪います。もし自分の心と体をコントロールできないのなら、攻撃してくる人をコントロールできるようには絶対になりません。呼吸と姿勢も大事です。システマのストライクに秘密はありません。実際は、とても簡単なのです。力学的構造をうまく使うことと、もともと設計されている通りに身体を動かしてやるだけです。緊張があると身体を統一して使うことができません。逆にリラックスしていると、身体のすべての部分がそれぞれなすべきことをできるようになります。」


Q.システマには武術的応用以外にも効用がたくさんあります。しかし、武術的側面に比べ、健康法としてのシステマに興味を抱く人が少ないのに驚きませんでしたか?
A.「健康法としてのシステマへの興味も高まっています。システマは最初、軍隊で訓練されていた格闘術であることが話題になりました。しかし、今では健康法として学ぶ人が増えています。私たちは最近、システマ呼吸法に関する本を出版しました。システマ呼吸法は、ロシアでの科学的研究に基づいており、国内では疾病の治療に使われています。システマがロシア国外で紹介されたのは、まだ最近のことです。新しい生徒たちは日々、呼吸法が日常生活にもたらす素晴らしい効能に気付いています。呼吸法だけでもやりがいがあります。新しいものは何でもそうですが、正しい評価が広まるには時間がかかります。もっともっと多くの人が呼吸法から利益を得るようになれば、その評判も広がるでしょう。私はただ、自分の知識を他の人々と分かち合える立場にいることに感謝するのみです。」


Q.システマのクラスでは普段どんなことをしているのか、読者に簡単に教えて頂けませんか?
A.「練習の内容は、いつも違います。基本の準備運動から始まる時もあります。システマ特有のエクササイズがたくさんあり、その中には、サイキ(気、心、精神)と肉体の準備を整える呼吸法も含まれます。プッシュアップや抵抗を使った運動、自重を使ったトレーニングなど肉体的に激しいワークをする時もあります。生徒が、自分の体を制御する能力を改善し、感覚を鋭くできるようにしてやることが大切です。次に、プッシュやストライク、掴みや武器に対して身体が自然に反応できるようにするための訓練を行います。生徒は自分の反応に気付き、それらを修正するためにゆっくり動きます。模範演技をする場合、指導者は原理を説明し、その応用をたくさん見せます。しかし、生徒が特定のテクニックを真似するように求められることは決してありません。むしろ自分のやり方で実験や練習をすることを勧められ、インストラクターはその手助けをします。そして慣れてきたら、接触と抵抗を導入します。このように、どのクラスもゆっくりと簡単なことから始まり、上達するにつれ実戦的になるので、まるで生徒の上達過程をそのまま映し出しているかのように見えます。」


Q.多くの人があなたの能力に驚嘆します。私は今までさまざまな武術のたくさんの名人達人に教わったことがありますが、それでもあなたの持つ知識の量とそれを他の人々と分かち合おうとする積極的姿勢には、いつも感銘を受けます。あなたの能力は何によってもたらされたものですか?
A.(笑いながら)「潜在能力は誰にでもあります。私のスクールに入門した人は皆、私よりずっとうまくなる能力を持っています。システマはその点、とても効果的です。私は単に、私が生徒に教えるのと同じ基本原理を守り、それを一途に練習しているだけです。私の持っている力はどれも、できる限り正直で、誠実な人間であろうと努力していることから生まれています。そしてもちろん、神が私にシステマを学び、教える機会を与えて下さったからで、私はそれに本当に感謝しています。すべては、善き人であることから始まります。後のものは自然についてきます。」


Q.10年後、システマはどうなっていると思いますか?
A.「神が望んでいらっしゃるのであれば、現在同様、成長し続けているでしょう。このシステム(体系)はあらゆる人の役に立つと思います。」


Q.システマの最高指導者を務め、挑戦に直面し続けることにプレッシャーを感じたことはありますか?
A.「私はいつも、自分が知っていることを人と分かち合いたいと思っています。私は他人と競ったり、人の上に立とうと思っていません。私とあなたは今日、一緒に練習しました。その時、あなたは接触(打撃)を経験しました。でも、けがはしませんでしたね。むしろ、自分自身の肉体と潜在能力に対する理解を深めました。それは私があなたを負かそうとしなかったからです。私は単にあなたに対し何ができるかを見せただけなので、あなたは今、良い感情しか持っていません。悪意はないですよね。」


Q.まったく、その通りです。では、そうした謙遜の気持ちで状況に臨めば、戦いのプレッシャー自体を消すことができますか?
A.「自負心は確実にプレッシャーを高めます。私は生徒と練習する時、最善を尽くします。例えばある日、ナイフで切られてしまったとしたら、私はもっと一生懸命練習しなければ、と思うでしょう。もし神がその時に私の命を取り上げず、学び続ける機会を与えて下さるのなら、わたしはその機会を掴み、全力を尽くすでしょう。(笑いながら)事実、私はナイフで切られた経験があります。」


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聞き手のケビン・セコアーズは、ヴラディミア・ヴァシリエフ氏に認定されたシステマ・インストラクターであり、モントリオール・システマ・アカデミーの主宰者。世界のシステマ・ファミリーの統率者であり、ヴラディミア・ヴァシリエフ氏の師であるミカエル・ヴァシリエヴィッチ・リャブコ氏とのインタビューは、2006年8月6日に行われた「サミット・オブ・ザ・マスターズ」の際に行われた。



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Author:TKHDKTGW
北川貴英:システマ東京主宰。08年モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより公式システマインストラクターとして認可。16年コンディショニングに特化した「INSTRUCTOR OF APPLIED SYSTEMA」に認可。首都圏を中心に各地で年間400コマ以上を担当。システマ関連書籍を多数執筆。教育機関、医療系シンポジウムなどでのセミナーや各種媒体を通じてシステマを幅広く紹介。今なお毎年欠かさず海外研修に赴きスキル向上に努める。
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