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ミカエル・リャブコ インタビュー 【前編】

MEIBUKAN MAGAZINE No9」に掲載された、2006年夏のインタビューです。
翻訳&転載許可を与えてくれた執筆者のケビン・セコアーズと翻訳者のTさんに感謝です。

「ミカエル・リャブコ インタビュー 前編」

 ロシア武術システマが、ロシア国外に初めて登場したのは1993年だった。しかし、その後、システマはまるで世界を侵略するような勢いで普及していった。カリスマ性と達人技を持つ元ロシア軍特殊部隊隊員、ヴラディミア・ヴァシリエフ氏が先頭に立ち、システマは国際社会にその根を広く深く伸ばしていく。だが、システマは他の武術とはあらゆる点で異なり、革新的であり、非伝統的な戦術を特徴とすることから、たちまち疑いの目で見られ、議論の対象ともなった。旧ソ連軍で長い間、極秘に用いられてきた武術であるという過去も、そうした理由の一つだ。それでも、その実践性への評価は広まり、瞬く間に一流武術家から初心者まで大勢が、この驚異的な武術の力を自分自身で確かめようと集まってきた。
(聞き手 ケビン・セコアーズ)

 多くの名人達人と同じく、ミカエル氏の外見からは、彼の卓絶した技と今日の彼を作り上げた特別な経験を窺い知ることはできない。ミカエル氏は1961年、ロシアのベラルーシに生まれた。わずか15歳でロシア軍特殊部隊に徴兵された当時の彼は、今とはまったく違う引き締まった肉体を持つアスリートだった。現在のがっちりした体格と幸せそうな笑顔は、精鋭部隊の兵士というよりは優しい叔父を思わせるが、ミカエル氏は最近までロシア軍特殊部隊の現役の大佐だった。彼は、人質事件から秘密軍事作戦までのあらゆる危機的状況を生き抜いてきた経験を持ち、ロシアの法務大臣の個人的アドバイザーも務めたことがある。しかし、ミカエル氏は今でもトレーニング用マットの上では、ずっと小柄な人間と同様の反応速度と優雅な動きを見せることができる。だが、こうした目に見えるものよりも、彼の弟子の心に長く残る印象を与えるのは、ミカエル氏の謙虚さと寛大さである。

*   *   *

Q.なぜ武術の練習を始めたのですか?
A.「私の父は、筆舌に尽くしがたいほどの技を持つ達人で、私がまだほんの小さい子供の頃から武術を教えてくれました。しかし、軍に入隊後、彼の教えは、私の生死を分けるほど重要なものとなりました。」


Q.どうして軍隊に入ったのですか?
A.「ヒーローになりたいか?女の子と出会いたいか?と言われたからです。もちろんでした(笑)。しかし、入隊してみると、女の子はいないし、誰もが私をボコボコにしようとしているかのようでした。いや、まじめな話をすると、国を支えるのは国民として私の義務であると思ったからです。他の兵士が入隊するのと同じ理由で入隊しました。何も特別なことはありません。」


Q.武術を始めた時、そのトレーニングによって自分がどのようになるのかという予感はありましたか?
A.「まったくありませんでした。私の唯一の目的は、生き続けることでした。生き残るために練習したのです。トレーニングが上手くなったのは、ただ生きていたかったからにほかなりません。」


Q.初期のトレーニングはどんなものだったか説明して頂けますか?
A.「それは厳しい、とても乱暴なものでした。私たちには、はっきりと決められた目標があり、成功することを求められていました。それで、私たちは、そのために必要だと思うことをやったのです。」


Q.そのトレーニングの詳細を教えてくれませんか?
A.「よく同じ質問をされます。皆さん、私がどんな訓練をしたのかを知りたがりますね。まるで、それを知れば、私が今いる境地に辿り着くための完璧な行程表を手に入れられると思っているかのようです。だが、トレーニングとは、そういうものではありません。上達の過程は、人それぞれなのです。人は、自分の現状や、必要性、置かれた環境などに応じて練習すべきです。私が自分の練習で、あることをしたからというだけで、それが必ずしも正しいという訳ではありません。私たちは皆、やれと命令されたことや、その時に一番良いと思ったことをやります。だが、誰もが誤りを犯します。私よりもずっと厳しい練習をした人が大勢いるのは間違いありません。また、戦争で偉大な英雄だった多くの人々を私は知っています。でも、私は英雄ではありません。ただ運が良かっただけです。すべては神の思し召しです。」


Q.その頃からトレーニングのやり方や内容は変わりましたか?
A.「もちろん私の現在の目標は、昔とは違います。その一方で、今でもプロを教えることには深く関わっています。警備要員や警察官、軍人が、毎日のように私の所へ入門してきます。彼らは私の評判を聞き、私が彼らと同じ状況で働いた経験を持っているので、私のもとにやって来るのです。彼らは、私の言うことが単なる意見ではないことを知っています。私が彼らに何かを教える場合、それは、それが私と私が関わったチームの役に立ったからです。もう一方で、私は多くの民間人も教えています。システマは、大人も子供も学べるとても門戸の広い武術です。戦い方を教えるだけでなく、自分自身をさらに強くし、肉体的、精神的そして心理的に守る方法を教えてくれます。」


Q.ご自身の練習はいかがですか?今は日常、どんな内容のトレーニングをしていますか?
A.「私は動きの研究にかなり重点を置いています。いつも人がどのように動くのかを研究しているのです。私たちの肉体は絶えず変化しつつあり、私たちの肉体の働きも日々、それに応じて変わっています。私は現在、モスクワにある自分のスクールや世界中の国々でたくさんの生徒を教えています。でも正直に言うと、根は大変な怠け者なんです(笑)。練習よりも食べることの方が好きなのです。でも、優秀な人たちが訪ねて来て、私に正直な質問をします。私はこれまでの経験から、彼らの問いへの答えを知っており、また彼らを指導する義務も感じています。私にとってシステマは、自分一人で独占するのではなく、他の人々と分かち合うべき価値のある存在です。」


Q.システマについて多くの誤解があるようです。例えば、ある人々は、システマは、ロシア以外の武術や格闘術に対抗するためのものだと誤解しています。
A.「言い争いをしたがる人はいるでしょう。物事をセンセーショナルに取り上げるのは人の性です。システマの本質はロシア正教にあり、正教がシステマに与えている影響は良く知られています。正教がシステマの普及を助け、その活動を推進しているのは確かですが、私たちは生徒に特定の信仰に改宗することを求めてはいません。システマのインストラクターと生徒は、さまざまな経歴や信仰を持ち、その中には男性も女性も、若者も年配者もいます。私たちが認可したインストラクターたちを見れば、彼らがどれだけ多様であるかがわかるでしょう。システマは、神から世界中の人々に贈られた賜物なのです。」


Q.恐らく、システマについて最もわからない部分の一つに、サイキック・エネルギー(気の力)の役割があると思います。これが何を意味するか読者に説明して頂けますか?
A.「私たちはトレーニングで、パートナーのサイキ(心、精神、気)に関わる事柄について言及する時、この用語を使います。これは単に、肉体的と無関係の事柄を意味します。ここ(カナダなど欧米諸国)では、サイキック・エネルギーが違う意味を持つのは理解していますが、私たちは何も魔法や神秘的なことを言っているのではありません。例えば、ボクシングで、一方の選手が他方にフェイントをかけ、実際にパンチを出さずに他方をのけ反らせた場合、これは相手を肉体的接触なしにコントロールしたことになります。こうすることで相手は、他の部分への攻撃に対し脆弱になります。これが相手のサイキをコントロールしているということです。別の例をあげましょう。あなたが車で高速道路を走っている時、他の車にぶつからずに自分の車を運転できたとしたら、それもサイキック・ワークの一つの形です。追い越しをかける時、他の車がいることかどうかを確かめるために、いちいちぶつかる必要はないですよね。それは、あなたが他の車の存在を感じ、パーソナル・スペース(個人的領域)を直感的に維持できるからです。人は毎日、意識せずにサイキック・エネルギーを使っています。システマでは時々、恐怖や恐怖に対する反応が戦いの中で果たす役割を利用しているだけです。」


Q.実戦では、どんな応用があるのですか?
A.「応用はたくさんあります。例えば戦いを避けようとする場合、どう自分の体を位置させるのか、どう手を動かすのかが大きな役割を果たします。どんな言葉を使い、どのように話すのか、そしてどのように呼吸し、どう目を動かすのかさえ、戦いを避けるのか、それとも進んでやるのかの違いを生み出します。私たちが、学んでいるのはこうした事です。私たちのほとんどは、普段の生活で毎日攻撃を受けることはないでしょう。でも人ごみや混雑した道を通らなければならないことはあると思います。接触しないで動くことを学べば、自分の体をもっと上手に制御し、相手を攻撃することなく状況を切り抜ける方法を身に着けることができます。これは健康に良いですし、精神を穏やかにします。誰彼かまわずぶつかっていると、いずれ多くの攻撃を引き寄せ、目を向ける先どこででも戦うことになるでしょう。もちろんサイキック・ワークは、システマのトレーニングのほんの一部でしかありません。」


Q.多くの人々が、あなたの「触れずに倒す技」の動画をインターネットで見て、超自然現象だと信じたり、あるいはインチキだと思ったりしています。そうした人々に対して何と言いますか?
A.「トレーニングの目的は、生徒を強くすることで、弱くすることではありません。戦いに備えるためには、接触と抵抗を絶対に経験する必要があります。何なら、私と練習したことのある人に聞いてみて下さい(笑)。接触を経験したはずです。しかし、いつもそうした練習をするのは体に良くありません。やがて肉体を疲れさせ、痛めることになるでしょう。誰もが、ボクサーが実践的な練習をしていることに尊敬の念を抱きます。それはボクサーが、彼ら自身の考える戦いというものを理解しているからです。ボクサーたちは戦う時、実際に叩き合います。しかし、それは実は彼らのトレーニングのほんの一部なのです。ボクサーのトレーニングはほとんどの時間、リングの外で行われます。走ったり、縄跳びをしたり、フットワークやシャドウ・ボクシングの練習をするのです。スパーリングをやる場合も、しばしば非常に軽くやります。ボクサーでさえ、いつも全力でやるのは不可能なことを知っています。サンボの選手も同じです。彼らは床の上を一緒に転がりながら、関節技や押さえ込みを練習するためお互いに隙を与え合います。相手の骨を折ってやろうと、いつも全力を出している訳ではありません。お互い壊し合っていたら練習が成り立たなくなるからです。例えば、あなたが受け身を学ぼうとしているとします。慣れるまで、自分の前に椅子か何か他の障害物を置いて、それを飛び越える練習をするかもしれません。でも、そうした障害物を思いっきり投げつけられたり、車から飛び出したりする必要はないでしょう。私たちがやっているのは、これと同じです。もっともスポーツをやるつもりはありませんが。私たちが対象としているのは、日常の出来事や路上で遭遇するかもしれない攻撃です。私たちは時に、安全にかわすことができる程度のゆっくりとした速度でストライクを出すなど、練習相手に脅威や障害を与えます。相手に、攻撃とそれに対する自分の反応をじっくりと観察する時間を与えるのです。この練習は、自信を育て、動きを研究する助けになります。もちろん、これは私たちのトレーニングのほんの一部分にしかすぎません。システマを完全に理解する最良の方法は、私たちと一緒に練習し、それを直接感じてみることです。



後編はこちら

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Author:TKHDKTGW
北川貴英:システマ東京主宰。株式会社アトス代表取締役。08年モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより公式システマインストラクターとして認可。16年コンディショニングに特化した「INSTRUCTOR OF APPLIED SYSTEMA」に認可。システマ関連書籍を多数執筆。教育機関、医療系シンポジウムなどでの講演するほか、テレビやラジオなど各種媒体を通じてシステマを幅広く紹介。今なお毎年欠かさず海外研修に赴きスキル向上に努める。ヤングマガジン連載「アンダーニンジャ(花沢健吾著)」、NHKドラマ「ディア・ペイシェント」監修。
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