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「システマ、神経反応時間と学習について」by アンドレス・ビサズ

「システマ、神経反応時間と学習について」
by アンドレス・ビサズ(システマオーストラリアRMA代表、スポーツクリニック経営者。博士)


戦いを主眼においた武術(fighting arts)では、攻撃に対する反応スピードが主要な要素となる。知ってのとおり、これには様々な要素が絡んでくる。適切なタイミングの動きは、対戦相手との関係においてポジティブな結果を得るために大変重要になる。各武術の戦いの原理には、相手に対して時間的なアドバンテージを得るために実行される様々な戦略がある。SWATチームや特殊部隊のようなプロフェッショナルに共通したアプローチでは、少数によって粗大運動に基づいた技術が包括的に適用される。このアプローチの背後にある考えは:

-1 決断時間を短くする。すなわち攻撃に対する反応時間を短くする。

-2 粗大運動は人にとって脅迫的な状況の元でも機能することを許可する。

身体的な攻撃に対する脳の反応はとても複雑で様々なものがあり、私が考察したい興味深い側面がある。上述した意識的な選択によるアプローチとは反対の意味の潜在意識的なアプローチ(システマ)による反応時間の理解は大変重要になる。脳が動きの準備をするとき、例えば人に攻撃をする場合の反応では、筋肉をアクティブにすることなく、意識で自覚されることもないが、いつもまず予行演習が行なわれることはあまり知られていない。これは脳がエミュレーターのような役割を持っていることを意味している。

私たちが意図した動きを自覚する前に、私たちの脳はその動きの予行演習を脳内マップで行なっている。これにはホルモンの活性化、血圧の変化、通常起こりうる全ての精神生理学的な適応が含まれる。ここには唯一、筋肉(と意識)のアクティブ化が欠けている。この予行演習に従ってのみ、私たちの意図した動きが意識され、筋肉がアクティブになり、その動きが実行される。私たちの意識は、事実としてすでに脳内で実行していることに気付かずに、その動きが自発的かつそれが起源であるとしている。

つまりここに違いがある:動きが潜在意識や私たちがそう呼ぶものによって決められるのか、あるいは動きが自発的に起きることにして、私たちの意識的な反応が脳による二回目の実行であるとするのか。
しかしながら、意識的なコントロールの例において(SWATチームや特殊部隊のような・・・)、もし技術的な選択が要求される場合、脳は三回目の実行として筋肉をアクティブにする前に、選択された技術に対して予行演習を繰り返す。(技術的な)選択肢が少ないことは選択する時間を減らす一方で、意識的なアプローチである場合は、脳による三回目の実行であることに変わりはない。システマにおいては潜在意識の反応によって、つまり二回目の実行として行動することができる。

このアドバンテージは二回目ということで、僅かなことのようであるが、言うまでもなく大変重要と言える。
話はこれだけに留まらない。潜在意識の反応における脳の初動はどこに起源があるのか?神経学者は、これらの動きにおける突発的な反応を固定的動作パターン(FAP)として言及する。固定的動作パターンは、選択と決定時間の縮小において自然に選ばれる選択システムである。つまり、過去の経験を通して身体はある環境における(トリガーイベント)ある種の反応を学習しており、反応時間を短縮するために、迅速な"動きのパッケージ"を脳が一から作り直すことなく必要と状況に応じて適用している。

これらのパターンは私たちの反応のシステムに深く根ざしている。これはとても単純な回避行動から複雑な動きのパターンまで多岐に渡っている。しかしながらそれは、どのような状況においても最良あるいは最適な選択を導くわけではない。

例をあげると:もしあなたが熱いものに手を触れると、FAPによって直ぐに手を引く、これは全く問題ない。別の場合、誰かがあなたにフィンガーロックを仕掛けたとすると、同じFAPによってさらに悪い状況、自分の指にさらにプレッシャーをかけるような自体が引き起こされる。どのようにこの状況を変え、FAPあるいは他の迅速な反応ができる動きを変えることができるのか?・・・トレーニングすることが回答になる。

トレーニングには現在のFAPを覆す力がある。
この点についてより近い視点で見てみよう。脳は脳内の各場所にたくさんの身体マップを持っている。最も基本的(かつ有名)なものは、一次運動野であり、感覚マップはホムンクルスとして参照されている。これらの身体マップは、階層的で低いレベルから高いレベルまで相互に影響し合っている。身体からの情報は一次感覚マップに入り、複雑な過程に至る。より高次のマップの層に至るまで継続的な再評価手続きを踏んでいく。より高いレベルになればなるほど、より多くの情報を通る。これらは感情、記憶、身体イメージ、信条、痛みのパターン等の行動の過程において併合される。上昇の過程において情報は、今まさに入ってきた新たな感覚情報により再評価と確認されるために、継続的にその連鎖に送り込まれる。

最終的に最適な行動が決定され、エミュレートされるが、その際にそれが階層を通して、筋肉がアクティブ化され意識的な動きが起きる一次感覚マップまで送り込まれる。これらの複雑な手続きと作用はほんの一瞬で起きることを心に留めておきたい。私たちがいくら努力をしても、全ての行動は感情と関連していることも見ることができる。そのこと(行動と感情が関連していること)には気付かないかも知れないが、それは避けられない。

私たちは定期的なトレーニングによって、自身の身体に、ある状況下で選択される反応のパターンを教えている。ここでは具体的なパターン(技術)を学ぶことができるし、またリラックスによって動くというような、原理的な反応を身体に教え込むこともできるのは興味深い。

それによる違いは、リラックスや効果的で自然な動きのように、システマにおける原理に忠実に選択されたものであれば、問題に対してそれ固有の解決策を見つけることを自身の身体に許すことができるところにある。
この広範囲な身体の応用を可能にするためには、神経系が私たちが簡易化と呼ぶところによって働いていることを理解しなければならない。

簡単に言えばこの意味は、ある動きを使えば使うほど、次回も同じ動きが選択されるようになるということだ。もし模範的な動きを繰り返し行なえば、関連のある状況(トリガーイベント)とみなされたものに対して使われるFAPとして、最終的にその動きが具体的なかたちで強固になる。しかしながら、もし私たちが具体的な動きを絶えず変化させ、さらにそのやり方を継続的に行なえば、それらが落ち着いてリラックスした動きとなる。その後、この習慣の質自体が、具体的で過度に簡易化された動きのパターンに付随せずに、FAPの反応として植えつけられるようになる。脳はその際、最も適切とみなされる自身の動きの選択パターンとペアをつくる。それは今までにトレーニングすることで慣れ親しんできた動きのパターンから引き出されるが、個々の状況に正確に適用されるやり方に比べアドバンテージがあり、'自由'が存在する。

いったん初期の潜在意識による反応が起きたときも、必要に応じて意識により方向付けた動きをそこに含めることができる。すでに起きている反応とともにそれを実行することで明らかな時間的な遅れに曝されることがなくなる。簡単に言えば、脳は平行処理が可能なのだ(しかし厳密に言うと神経系のオンオフ機能により実際には交互処理となる)。

必要な際に潜在意識が最適な反応を選択できるように自身に原理を教え込む場合、潜在意識へのアプローチはあるレベルの信念が要求される。これは具体的な名前や技術を具体的な状況に合わせるトレーニングとは全く異なったアプローチになる。

”技術によるアプローチ”に対して“原理によるアプローチ”のアドバンテージは、毎回の動きが僅かに異なっており、どこか新しいため、脳が終わることのない同じ動作の繰り返しに飽きないことにある。原理それ自体が確立されれば、驚くべきことが起きる:限られた組み合わせしかない技術的な反応の代わりに、私たちは際限のない”原理による反応”を得ることができる(多くの場合それは身体の記憶を参照する)。

私たちは、自身の身体がそれ自体で与えられた状況に対してクリエイティブな解決策を見つけ出せるようにトレーニングする。もちろん身体は、神経学的簡易化、個々の身体がもつパラメータ、個々の能力が主たる要因となるそれ自体が好む特異性を発展させる。

潜在意識によって動作を行なうためには、リラクゼーションは絶対的な要素であることを述べるのは大変重要になる。テンション(恐怖、攻撃性等)に曝されているとき、私たちの脳は並行処理を行なうクリエイティブな能力や、最終的に統合され効果的に機能する能力を失っている。特に闘争・逃走の状況において、テンションがもたらすパフォーマンスの低下については多くのことが書かれてきた。この点について述べるのはこの文章の目的ではないが、もし私たちが潜在意識による効果的な動作を行ないたいのであれば、リラックスした動作を植えつけることは極めて重要であると強調しておく。

同様にそれは、負荷の強い接触のあるストライクや攻撃性をともなう対人関係における相互作用をともなう闘争状態を学ぶトレーニングの際にも重要である。これは適切なトリガーイベントを供給し、すでにFAPに存在する具体的な'接近と回避の動作'を調整する助けになる。もし適切に行なわれれば、恐怖や痛みから起こるテンションを減らす助けにもなる。

さらに興味深いことに、複雑な動きをゆっくりトレーニングすることによって、それらの動きに要求される学習時間が大幅に短縮されることが調査によって明らかにされている…これは慣れ親しんだことだろうか?

そうである以上、私たちがトレーニングをすればするほど、より脳内マップの階層における低い部分で処理を行なうことになる。これは、長期にわたるトレーニングの後には、原理による反応はそのほとんどが一次運動野において処理されるという意味になる。

この時点で私たち自身のシステムが確立され、トレーニングに従ったFAPによる本能的かつ自発的な反応が可能になる。別の言い方をすれば、潜在意識が焦りや突発的でテンションをともなった動きの代わりに、トレーニングのようにスムースでクリエイティブかつインテリジェントなやり方で自発的に攻撃の反応を起こすようになる。適切なトレーニングによって、私たちは感情的な関与や、破壊的な恐怖を元としたテンションを減らして動くことができる。
技術を元にしたトレーニングでも自発的なFAPによる反応を優位にするのは明らかだが、意識的な技術の選択を継続していては、三度目の脳の活動によって反応することになるだけだ。

システマの練習生が、潜在的な動作におけるこの点を取り違えて、誤ったトレーニングや信念が無い状態でいれば、同様に三度目の脳の活動によって反応するしかない。これは特に新しい生徒にみられ、相当量のトレーニングを経てからでないと変わることはない。

先に述べたように、これは大いに容認可能なことであるが、身体的な闘争において意識的な決定を行なうことは賢明ではなく、技は自発的に試みた場合には意識的な動きを始めない。

それに対して多くの潜在意識による働きを控えめに混ぜることが好ましい。これにより幾らかの意識的、戦略的なコ
ントロールを保ちながら、障害を最小化し、自分の動きが速く滑らかで自然になることを許すことができる。
これは力量のあるシステマ練習生の動きの中に見られ、単純で簡易かつ自然なようであるが、実際に達成することは非常に難しい。難しいというのは、攻撃や脅迫的な状況下で潜在意識と顕在意識の自然で効果的な反応過程を獲得するためには、献身と長年にわたる注意深いトレーニングが必要になるためである。充分な分量の遊び心、献身、信念がこの長旅を素晴らしい喜びと満足のあるものにすることができる。言うまでもなく、トレーニングの間に内観と感覚を通して得られる私たちの人格と感情への洞察が必要になる。


著者:アンドレス・ビサズ
rmaSystema-Australia代表 スポーツクリニックを経営する治療家。



…マスターの原稿ではないのですが、海外のシステマ愛好家達の間で反響が大きかった記事なので翻訳しました。運動というと、つい筋肉や骨格に意識が行きがちですが、緊張を生み、動作を習得するのは神経系、脳神経系の働きです。それを見なおして見ると、「原理にそってゆっくりと、身体を感じながら丁寧に動く」という練習はとても理に適っているということが改めて分かります。忙しい中翻訳作業してくれたIさん、ありがとうございます!

元記事はこちらです。

Tag:トレーニングTips日本語版  Trackback:0 comment:0 

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北川貴英:システマ東京主宰。株式会社アトス代表取締役。08年モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより公式システマインストラクターとして認可。16年コンディショニングに特化した「INSTRUCTOR OF APPLIED SYSTEMA」に認可。システマ関連書籍を多数執筆。教育機関、医療系シンポジウムなどでの講演するほか、テレビやラジオなど各種媒体を通じてシステマを幅広く紹介。今なお毎年欠かさず海外研修に赴きスキル向上に努める。ヤングマガジン連載「アンダーニンジャ(花沢健吾著)」、NHKドラマ「ディア・ペイシェント」監修。
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