「ボクシング、サンボ、そして泥仕合…」 by ヴラディミア・ヴァシリエフ

久々にトレーニングTipsを掲載します。

今回は若き日のヴラディミアの実戦譚です。

原文はトロント本部のサイトにある「BOXING, SAMBO OR MUD FIGHTING...」です。


『ボクシング、サンボ、そして泥仕合…』
by ヴラディミア・ヴァシリエフ

 私が14歳の時、この事件は起こりました。私はモスクワから北に2時間ほど行ったところにあるかなりガラの悪い工業都市、トベリで育ちました。私は週末だけ家で過ごし、残りの5日間は非常に深刻な家庭から来た荒っぽい孤児でいっぱいの寄宿舎で過ごしていました。当然、私たちの興味は格闘技へと向かいます。私たちのクラスにいた13人のうち。12人はボクシングを、残る一人はサンボを学んでいたのです。

 ボクシングを高く評価していた私は、当然その一人に対して強い疑問を感じていました。拳を用いた方がより決定的な結果を収められるように思えます。ほんの2、3発の良いパンチが入りさえすれば、勝利を収めるか勇気ある逃走をすることができるでしょう。(あなたはいつだってあなたの足の上にいるのですから、簡単なことです)

 私たちの学校に来たボクシングの先生(公認指導者候補生)は、「肝心なのは実生活での経験だ」と教えてくれましたので、私たちはいつでもどこでも使える拳を身につけることにしました。彼の方法と指導法は、彼のおよそ6.4フィート、230ポンド(訳者注:約1メートル95センチ、104.3キロ)という体格と体重に基づいたものでした。私たちのような興奮した若者にとっては彼は馬すらノックアウトできる巨人に思えたものです。私たちは彼の戦闘法、つまり、遅く、落ち着いていて、非常にパンチの重い、ヨーロピアンスタイルのヘビー級の戦い方を真似しようとしました。唯一の問題は、私たちは皆、痩せっぽちで身軽であるにも関わらず、巨大で重い人間であるかのように戦わなくてはいけないという点でした。それは傍目にはかなり滑稽だったことでしょう。後に私は初めて大会に出たときに、他の選手を見てあまりにもたくさんのファイティング・スタイルがあることに驚いたものです。

 ケンカは日常茶飯事でした。それは素早く、しばしば流血沙汰になり、多くの人を巻き込みました。私は純粋に関節技やチョークだけが用いられることを見たことがありません。多くの組み技はキックやパンチ、岩や棒、鎖などの様々な武器と共に使われました。私たちはみな10代でしたので、喧嘩はほんの1分もしないうちに「警察だ!!」という叫び声で終わります。その後は出来るだけ早く走るのです。乱闘現場で捕まった者は容赦なく叱責されて、勾留されて終わります。また服が敗れ、血や泥のついたまま現場を立ち去るのは逮捕されることを意味します。ですからボクシングの技術は私たちにとても好まれ、一発で決着をつけるような重く強力なパンチは私たちの目標であり、究極の傑作とされました。

こんなジョークがありました。
ある人に試合について尋ねられたボクサーは、こう答えました。

「もし奴らがジムの照明を落としさえしなければ、オレは相手を完璧に打ちのめすね」

 これは私にパンチがどれほど素晴らしいかを見せつけてくれました。彼は完全に打ちのめされてしまって、自分がノックアウトされたことにすら気がついていないのです。

 私は格闘技や、悪天候、年齢やサイズの違い、感情の動きなどの全てが合わさった、忘れられない経験をみなさんにシェアしたいと思います。

 ある週末、私が家にいるときに、同じアパートにいる仲の良い友人がたくさんの打ち身を負っているのを見つけました。どうしたのかと私が尋ねると、酔っ払った彼の継父が母を殴るので、彼は母を守ろうとして激しく殴られたことを、いやいやながらに教えてくれました。非常に頭に来た私は、すぐに彼の継父のところにカタをつけにいったのです。

 その時、私はとても痩せっぽちで体重はおよそ100ポンド(訳者注:約45.3キロ)ほど、一方の継父は40歳ほどで200ポンド(90.7キロ)を越す大男です。その行動は私たちが住む建物のフェンスの脇で行われました。秋の夜になりかけていた頃、辺りは闇に包まれる直前で、小雨が終わりのない霧雨へと変わろうとしていました。1ヤード(訳者注:約90センチ)四方のその場所はスケートリンクを作る準備が行われ、ひどい泥と土で覆われていました。
私は意を決して、泥を突っ切って歩いてくる、大きく残忍な上に酔っている、まるで怒りに満ちたモンスターのような継父の前に歩み出ました。

 怒りでいっぱいの私は、なぜそんなひどいことをしたのか、もう二度としないでくれと叫びながら、彼に向かって突き進みました。彼は疑いに満ちた目で見返してきました。怒りが込みあげて来た彼は、私を叩くか押しのけようとして腕を振り上げました。1年に及んだボクシングの練習は無駄ではありません。私の脳裏にはボクシングの先生の言葉が蘇ります。「体重とスピードを乗せて、最初に打て!」。そして私は強力なフックを彼の顎に打ち込んだのです。彼は自分の膝の上にがっくりと倒れこみ、私は本当に驚くと同時に、自分のパワーに満足しました。しかし、その直後に私は彼が倒れた本当の理由を知ったのです。酔って、泥に滑っただけだけだったのです。倒れたのは彼だけではありません。私もまもなく滑って彼の右隣に倒れこんだのです。彼は膝をついて私を抑えこもうとしました。私はレスリングを懐疑的に思い、グラウンド・ファイティングについて全く無知であったことを後悔しはじめました。

 信じられないことに私は、彼からの圧力による破壊力が低減され、滑っていく「空っぽの領域」を見つけました。その領域によって私は泥の底の方へと押しやられていきます。私は膝と手をついている彼を蹴り上げました。彼は私の足を掴むとやすやすと泥の中へと引き込みます。死への恐怖と生きたいという欲望がその短い時間の中で、大切な役割を果たしました。私は足を用いてジャンプしました。私は立ち上がり、もう一度彼を殴りました。彼は再び倒れました。今度も私の打撃に特別な威力があったわけではありません。なぜなら彼は酔っており、さらに地面は信じられないほどにぬかるんでいたのです。

 私はその時、力のかぎり彼を蹴ることができました(今なら、感情まかせのキックが戦いにおいて賢明でないことが分かります。自分の力を状況に基づいて計算しなくてはいけません)。そのことを知らなかった私は、その力いっぱいの蹴りによって足を滑らせて背中から転落してしまったのです。おそらく肋骨に蹴りが入ってひどい苦痛に見舞われました。彼の怒りは高まりきって、私への殺意にまで達していました。私が立ち上がろうとした時、彼は狂った獣のように私のセーターの上の部分をつかみました。私は彼の顔から、たった今、彼が私に何か普通でないやり方で、止めを刺そうとしているのを察しました。

 彼の握りは力強く、その顔は怒り狂ってました。私はやけくそになって蛇が脱皮するように、セーターを脱いで脱出しました。私は彼の手の感触を感じることも無く、滑り出ました。私は助かったのです。
その時、私たち二人は聞き覚えのある叫び声を聞きました。

「警察を呼んで!」
 男の妻がそこにいたようです。警察が到着したら彼女が私に不利な証言をするのは明らかです。彼の動きが一瞬止まった時、私はよくあるやり方でこの戦いに決着をつけました。これまでにない勢いで、逃げ出したのです。私はセーターの下にシャツを着ておらず、上から下まで泥まみれだったので、私は家に帰るまで明るく照らされたところを全て避けなければなりませんでした。

 こうしている間、私はずっとなぜ友人が近くで立っているばかりで加勢してくれなかったか、考えていました。後に私はこの戦いはほんの30秒にも見たない出来事だったことを知りました。私を動揺させたもう一つの問題は、セーターの紛失でした。私はほんの僅かしか持ち物がなかったので、そのうちのどれか一つ失うだけでも、非常に困窮してしまうのです。

以後数週間、この男性は猟銃で私を狙い撃とうと狙い続けていたのですが、この話はまた別の機会に譲ります。

 これは私にとって本当に記憶に残るケンカでした。それまでストリート・ファイトでそこそこ成功していましたが、この時から人生についてより真剣に見つめ直すようになりました。私は新たな何かに直面しました。動きも力、精神、そして完成度など、全てが違う、 私より年上の男です。それは私が後に分析を加える、多くの質問を与えてくれました。他の格闘術は何年も、私に満足のいく答えを与えてくれませんでした。私はシステマの練習によってのみ、成功する鍵を理解できたのです。

静けさを保つこと、あらゆる状況によって動きの選択の余地が色々とあるのを認識すること、動き続けること、手や足を使わずに身体だけを動かすこと、より大きく、重く、経験のある相手を力で圧倒しようとするのは無駄であること。

 私は数多くの戦いで、ありがちなミスを見てきました。人々は衣服に“張り付き”ます。相手が衣服をつかんできた時、その手から服を引き離すことに全ての努力を注ぎます。

 その上、幾度となく私は、いかに打撃をするための用意や構えが相手に丸見えで、察知されやすく、被害を受けやすいものであるかを目の当たりにしました。

 実戦でもし友達を助ける義務を引き受けたなら、その友達は必ずしも自分を助けてくれるとは限らないことにも気付きました。さらに自分を守ってくれる友達を用意したほうがいいかもしれません。そして最後に恐怖に屈しないことが生き残る鍵となる一方で、迅速に自分を動かしサバイバルさせてくれる、「勇敢な恐怖」ともいうべきタイプの恐怖があることにも気付きました。しかしそれもシステマのトレーニングで得られるような、完全なコントロールを与えてくれる訳ではないのです。

楽しんでください。

この記事は2007年7月4日に掲載されました。

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Author:TKHDKTGW
北川貴英:システマ東京主宰。08年モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより公式システマインストラクターとして認可。16年コンディショニングに特化した「INSTRUCTOR OF APPLIED SYSTEMA」に認可。首都圏を中心に各地で年間400コマ以上を担当。システマ関連書籍を多数執筆。教育機関、医療系シンポジウムなどでのセミナーや各種媒体を通じてシステマを幅広く紹介。今なお毎年欠かさず海外研修に赴きスキル向上に努める。
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