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「そして静寂へ…」by コンスタンチン・コマノフ


「そして静寂へ… -いかにして静かに動くか-」 
 
by コンスタンチン・コマノフ


私が陸軍士官学校の新人だった頃。あるエピソードによって、私は本質的なことを学ぶ経験をした。

一年目と二年目はとてもタフな時期だった(少なくとも私にとっては)。私は自分の年齢で持ちうる“全て”の蓄積を総動員し、あらゆるやり方を変え、より正確に言うならば、古い自分自身を克服しなければならなかった。

学校生活が3ヶ月ほど過ぎた11月の初め、我々は忘れられない最初の3日間フィールド・トリップに出かけた。それは次のような想定でスタートした。警報とともに40キロほど離れた第二基地へと徒歩で行くのだ。その途中、我々は止まることなく、攻撃と防御を練習した。部隊での走行、射撃、戦術や火器、もしくは化学兵器による攻撃や空襲。立ち止まる度に壕を掘り、夜ごとに小隊のストロング・ポイントを作っていった。知らない人のために言うと、小隊のストロング・ポイントには、立てるだけの十分な深さを持ち、胸壁を備えた、単独あるいは連結された溝、輸送のためのトンネル、戦闘車両のための壕、守備を固められたシェルター、そしてそれらにともなう様々なものが含まれている。これらの全ては毎晩霜が降りる秋、湿った雪の中で仮眠をとりながら、走り、這いずり、「予期される敵からの砲撃に備えて」頭を下げ、足首まで泥に浸かり、ずぶぬれのトレンチコートとブーツを身につけながら行なわれた。

全行程のうち何10キロも足には出血と痛みが伴い、さらに数立方ヤードもの土を掘ったため、手の平にはシャベルによる水ぶくれが出来た。だが実は一番最初の夜、私たちは溝を一本も掘らなかった。その代わりに移動、探索、突撃、防御といったナイトワークの方法を仕上げたのだ。それに比べたら溝を掘るほうが簡単だったくらいだ…。

私は全ての“血生臭い詳細”をシェアするつもりはない。ただ、三日目の夜に起きた私たちの最初の“戦争”から「STATE(目的を遂行するのに適した心理状態。過去の記事を参照のこと)についての大まかなアイディアを入手するようにして欲しい。私が話すのはその夜の事についてだ。

3日目の夕方、さらなる攻撃の後に私たちは森の端に防御ポイントを定め、準備をするためにそこに走った(溝を掘るためだ)。我々の前方およそ200メートルの地点に、荒れ果てた二階建ての建物があり、その後ろには森が迫っていた。

この時、“敵”は防御地点を占めていた。その夜に出くわした“敵”は第三小隊からの我々の味方だった。夜の1時までに私たちはストロング・ポイントをだいたい掘り終えた。軍曹達(チーム指揮官と副小隊指揮官)は最前線をチェックし、周囲に誰も兵士がいなかったため、やがてシェルターとなる場所の底で起こした小さなたき火で暖を取ることに決めた。我々はいくらかの乾いた小枝、枝、そしてゴミを溝の全ての通路にまくように命じられた。それから我々は半休憩を取った。すなわち半分が起きて見張りをし、残りの半分が溝で寝ていたのである。

乾いた小枝やゴミは決して軍曹の思いつきではなく、前夜の後に注意されていたものだ。この時、点検要員は眠っている士官候補生の手から銃を抜き取った。その結果、私たち全小隊は前方、約1キロ半の地点にある敵の本部を襲撃しなくてはならなくなった…。朝の4時までに。もちろん襲撃する度に敵に“制圧”されるので小隊の半分は毎回、“死者と負傷者”を背中に乗せて立ち退かなくてはいけない。

ともかく、この時私は寝ず番であり、寒さと眠気に立ち向かう準備をしていた。私は左側の堀を見た。私の堀は一番左側だったのだ。夜になる頃にはさらに寒くなった。草木は厚い霜の層に覆われ、細い枝、落ち葉、そして乾いた茎は私たちが踏む度に大きな音を立てた。砕ける時の大きな音は冷たく、貫くような夜の静寂を遠方まで貫いた。どんな遠方からのあらゆる動き、あらゆる物音を聞くことができそうだった。

寒さによって私の歯はカタカタと鳴った。私はプッシュアップやスクワットをして筋肉を緊張させ、リラックスさせた。そして四つん這いになって機銃兵のいる隣の堀へと這っていった。その向こうで私は同郷の友人が小さな缶で起こした小さな火で手を温めた。彼は兵役義務を終了した後にこの学校に加わっていた。

永遠とも思える長い時間、何者も静寂を妨げることはできなかった。終わりのない沈黙、凍てつく寒い夜と堀、そして死に絶えたような静寂のほかに世界には何もないように思われた…。

突然、巨大な爆発があり、何者かの恐怖に満ちたこの世のものとは思えぬ悲鳴があがった。次から次へと爆発は起こる。軍曹の血も凍るような叫び声が、我々を攻撃へと駆り立てた。

溝の外へと飛び出し、木の端に着地した時、走っているのは自分だけだと気づいた。私は手近な茂みの裏に隠れ、何が起きたか見届けることに決めた。この待機は長過ぎるものではなかった。数分後、退却のシグナルがあったのだ。

シェルターで、少佐(戦術の講師)は爆発の前に火を使っていたところの隣に座った。軍曹は戸惑った様子で立ち、集まった士官候補生達は壁にもたれかかっていた。

何が起きたかは明らかで、シンプルだった。少佐は私の側面から前哨部隊を迂回させる壕に接近した。彼はほぼ全ての通路に立ち止まり、深く眠りこけている士官候補生から銃を取り上げ、軍曹が焚いていた炎の中に爆竹を投げ込んだのだ。そしてさらに2つの爆竹が続いた。寝ぼけた副司令官が出撃命令を出したが、多くの候補生達の足は寒さですっかり痺れてしまっていた。だから彼らは堀から飛び上がるとすぐに、まるで銃で撃たれたかのように地面に倒れたのだ。つまり戦闘が始まる前に小隊が壊滅してしまったのだ。

私たちはまさか自分達の基地やその周囲で長い時間、人がうろついているのを聞き逃したとは思いもしなかった。小隊の半分以上は、寒さのため眠ることなど出来なかった。にも関わらず、誰一人として見ても聞いてもいないのだ。水たまりにまかれた乾いた小枝、ブリキ缶、凍った草、葉、そして薄い氷。そのうちの一つも助けてくれなかったのだ。

少佐の決定は無情にして簡単だった。我々は彼に3挺の銃(彼が小隊から持ち去ったのと同じ数)を届けなくてはならない、さもなくば彼はこの事件について中隊の司令官に報告するという。後者が恐ろしい結果をもたらすのは目に見えている。

時は午前3時。チームは働くことにした。我々第1チームは、森を隔てた向こうにいる第3小隊からの仲間をターゲットとした。他の者達は自分達の運を試すために、隣人のもとへと向かった。

練習として我々は、自分達の軍曹がいる堀に近づいてみたが、誰も20歩以内のところにすら行くことはできなかった。小枝は鳴り、葉は音を立て、氷もまた割れた。私たちはまっすぐに立って歩いたり、四つん這いになって這って行ってみたり、匍匐前進などを試してみたりした。我々は一時間ほど費やしたが何の収穫もなく、手だてを見つけることが出来なかった。ただ一人だけ、装備やコート、ブーツを脱ぐことで4歩の距離まで近づくことができた。だが不運なことに彼は歯がガタガタ音を立ててしまったために、自分の位置を知らせてしまった。

静かに任務を遂行するための我々の試みは無益だったことを察したため、グループを2つに分けることにした。第一班はターゲットの右側から背後へと周り、出来るだけ接近して監視をする。第二班は最初のグループが去った後30分間待機し、左側の側面へと回り込む。彼らは前哨部隊か最寄りの堀に到着したら突然攻撃をしかけ、武器を持ち去るかただ騒ぐように試みる。そして彼らは来た道を隠しながら退却する。そして第一班はその騒音を利用して、誰かの銃を持ち去るのだ。

私は第一班に所属していた。我々はゆっくり、用心深く目的地へと近づいていった。それは永遠のようだった。それでもなお我々はまるで象の群れのような騒音を立てていたのだ。私は耳を塞ぎ、目をぎゅっと閉じたかった。最初、我々は迷うのを防ぐため森の淵に沿って進んだ。少なくとも我々は何かを見ることができた。そして我々は森のさらに奥へと進んでいった。私はリーダーがそこからどのようにして我々を連れ出すつもりだったのか、まったく分からない。

煙の匂いがした。我々は横たわり、捕獲するペアとそれをカバーする3人にグループを分けた。私は身体が最も軽かったので、練習の時、堀にもっとも接近出来た者とペアを組んだ。我々はコートとブーツを脱ぐと包帯を敷いてそれを守り、四つん這いになって“敵”へと這っていった。私は身体が簡単にウォーミングアップをしたのを覚えている。ネコ科の動物が持つような弾性のあるエネルギーの波動が感じられ、心はクリアになり、あらゆる感覚は鋭くなり、見えないものも全て感じられた。我々は一度の僅かな音さえも立てずに、半地下の衛兵所に辿り着き、その背後の茂みに身を潜めた。

壕の下部、その片隅では小さな炎が燃えていた。その隣では2人、静かに話している者がいた。3人目は眠っており、頭をケープで覆っていた。私は2つ声を認識した。第3小隊の恐ろしい副司令官と、第1チームの指揮官だ。学校に加わる前、彼らはいずれも落下傘部隊で18ヶ月働いている。明らかに我々では敵わない。だがほかに手だてもないので、眠っている者の近くに移動して待った。

しばらくして乾いた枝が折れる大きな音が響き、叫び声、ののしり声、そしてドカドカと足音が続いた。軍曹達が飛び出し、武器を抱えて音のした方へと走っていった。その時、私のパートナーはチャンスを手にした。彼は壕へと飛び降りて落ちていた銃を拾い、私へと投げると、壕の反対側へと走って登った。全ては武器を持たない士官候補生が混乱し、地面に座り込み、辺りを見回している間に素早く行なわれた。

帰り道は這わずに飛ぶように走った。我々は自分達の基地を探し、森の中で長い時間走り回った。戻った時に成功したのは我々だけであったことを知ってがっかりした。その他誰もうまくいかなかったのだ。

少佐は約束通り我々の隊の指揮官に、我々の小隊から取り上げた2挺の銃と、第三小隊からの銃を一挺手渡した。

3ヶ月もの間、我々はその少佐をあらゆる呼び名によって褒め讃え、その間、第三小隊もまた我々を褒め讃えた。

この時から、私と私の同僚は深夜の森の中で静かに、見つけられることなく動く方法を見つけたいと、燃えるような欲求を抱くようになった。

少佐はさらに1年間我々に戦術を教え、彼の驚くべき技術を一切隠したりはしなかった。彼は学ぶ気さえあれば、誰に対しても教えた。その後の軍役の間、彼らのかけがえのない経験を伝える者も多くいた。そして今や、かつての質問に対する答えが存在する。さらにその技術を身につけるため、慎重に作り上げられた方法論もまたあるのだ。

さて、いかにして静かに気づかれずに動くことを学ぶのか?


次のニュースレターへと続く…。


著者について

コンスタンチン・コマノフ
・警察機構特殊部隊少佐 
・ロシア軍偵察
・戦闘心理学博士
・モスクワ要人のプロフェッショナルボディーガード
・Summit of Mastersに参加するマスターの一人

コンスタンチンの論文はドミトリ・トゥルファノフ(システマシカゴのインストラクター)によってロシア語から英語へと翻訳されています。

Tag:トレーニングTips日本語版  Trackback:0 comment:4 

Comment

あきら URL|
#- 2010.07.02 Fri21:21
そこいらの小説や映画よりもエキサイティングで示唆に富んでいますね。
続きが楽しみです。
みなみ URL|
#- 2010.07.04 Sun00:10
このお話面白いですね~!
続きたのしみにしています(^^)
きたろう URL|Re: タイトルなし
#- 2010.07.05 Mon11:15
> そこいらの小説や映画よりもエキサイティングで示唆に富んでいますね。
> 続きが楽しみです。

ですねえ。僕も楽しみです(早く訳せっての(笑)。
きたろう URL|Re: タイトルなし
#- 2010.07.05 Mon11:16
> このお話面白いですね~!
> 続きたのしみにしています(^^)

コメントさんきうです! そういってもらえると訳にも気合が入ると言うものです。
っていうかマスター達の実践譚ってのはそれはもう凄まじいものばかりですよ。

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