ブリージング・セミナー3日目

いよいよ最終日です。メインはナイフワーク。

とは言え技術的なことをほとんどやりません。ナイフに対する「恐怖」をいかに克服して行くか、ということを突き詰めて行きます。それにはナイフを持つ人物との距離感や目のつけ方など、重要な部分を確認しますが、やはり大事なのは「呼吸」です。

武器が介在することで、マインドや精神、身体が変化します。その変化に捉われず、それらのバランスを保ち続けることが大事なのですが、それができるのは「呼吸」だけなのだそうです。

まずウォーミングアップとしては、歩きながらの呼吸。手を挙げたり、前に差し出したりといったさまざまな姿勢で緊張をほぐしつつ、あるきます。また、ステップや受け身にあわせてローリングをします。一歩で吐いて、次は倒れながら吐いて、転がりながら吐いて、立ちながら吐いて、次の一歩で吸って、のように、ちょこっと複雑な動きにあわせて呼吸をしたりもしました。

ナイフワークの始めは、目の付け方の実験。パートナーにナイフをランダムに振ってもらい、それを目で追うのと、相手そのものを見るので、その違いを体感する、というもの。もちろんナイフの動きを追う方が疲れますし、追いきれるものでもありません。

で、次はナイフをゆっくり振る相手とすれ違う、というもの。この時は、相手とすれ違ったあとも、常に相手に向かい続けるというのが大切です。これを、ナイフを振る人が目をつぶったり、ナイフを振る人が近づいて来たり、スピードが速くなったり、ナイフを隠し持たれたり、壁際に追い込まれた状態から始めたり、怒鳴り声をあげながら襲われたり、といったように少しずつ難易度をあげていきます。

ここで面白かったアドバイスが「呼吸に集中しろ」というもの。ナイフを持つ相手に近づく時、近づいてくる時に、バースト・ブリージングを行うのです。そうやって自分の体を意識し続けることで、不思議と恐怖感も軽減されるのです。

また、動きの注意点としては「足から動く」というもの。相手が切ったり突いたりしてくるのをよける時、体を曲げたりよじったりしてよけるのは禁物。常に足から動き、相手との距離を保ちます。それに気をつけつつ、ナイフで突いたりきったりしてくるのをよけたり、相手を倒したりします。

そして練習に関しては「ゆっくり練習すること」の重要性を繰り返し説いていました。身体に注意を向け、ゆっくり動いて緊張を見つけ、それを呼吸でリリースして行き、時おり速い動きの中でどれだけ動けるか検証し、その結果を踏まえて、またゆっくりと練習をするのだ、と言います。

で、ナイフワークの最後は参加者の中から三人を選び、ほかの参加者をめちゃくちゃに襲わせる、というもの。当然、練習でやった通りにはいくわけもなく、みんなナイフの餌食になってしまうのですが、これは「実際はそんなもんだということを認識しろ」というヴァレンティンなりのメッセージなのでした。ただナイフワークの練習を通して、ナイフを持った人に襲われても硬直せず、逃げられるようになるだけでもめっけもんなのだ、ということですね。

シメはおなじみの呼吸を使ったエクササイズと、相手の全身をゆらすマッサージ。寝た相手の肩や足、側面などを丁寧にゆらして、相手の全身を揺らします。揺れが全身に伝わることをきちんと感じるのが大事です。

ヴァレンティンに続いて、ヴラディミアが担当したのは相手の緊張を見つけて使う技術や腹圧の使い方、質疑応答、マッサージなど。

パートナーに緊張を作ってもらい、そこを利用して相手がくずれるようなパンチを打ったり、また、寝たり立ったりした状態で相手が腹部に拳を突き込んでくるのにあわせ、呼気によって腹圧を高めて衝撃を弾きかえす練習をしたりしました。腹圧を高める時には、一切筋肉を使ってはいけません。「なぜ、筋肉を固めて衝撃を弾いてはいけないのか」という解説として、「筋肉だとすき間ができるから」といったことを言っていました。例えば腹筋だと6つに割れていたりしますが、その割れ目から衝撃が入ってしまったりするのです。でもその内側からの内圧なら、風船のように均一ですき間がありません。

また相手の体に緊張がない場合は、背骨を狙うとのこと。といっても背中から背骨を直接打つのではなく、背骨の一点に衝撃が伝わるようにパンチを打ちます。今回はパンチに関してもより細かくリラックスや方向性を指示されました。

ほかにトピックとしては練習中の技の受け方について。
一部の参加者が「柔らかく受けるのはインチキっぽくて抵抗がある」というような、質問がありました。実戦での相手は当然、がちがちに固まっているだろうし、容易に投げたり、崩したりなんてできない。だからガッチリと抵抗した方が、実戦的なのではないですか、ということですね。

これに対してヴラディミアは「やわらかく受けるべき」と答えていました。技を受ける側もより実戦的な受け方をしなくてはいけません。それには、きちんと相手の力の方向を感じ、それに従って動いたり、崩されたりするべきだ、とのことです。その方が、本当の意味で「実戦的だ」との答えでした。とはいえ、このことはなかなか初心者には理解しずらいことでもあるようで、ヴラディミアは「デモンストレーションで相手が軽く吹っ飛ぶように見えるから、すぐにインチキだと思われてしまう」と苦笑いしてました。(北川補足:この「受け」の見事な例としてはDVD「Movement and Precision」)に収録されている、ヴラディミアとセルゲイによるデモンストレーションが挙げられます。柔らかくて的確な受けはお互いの能力を引き出しあうのだ、ということを教えてくれる最高の例だと思います)

あとは仰向けに寝た相手の首にタオルを引っかけ、それをゆすってリラックスさせるマッサージなど。これも首だけをゆするのではなく、相手の足先まできちんと振動が伝わるように、ゆすらなくてはいけません。実はこの、「振動を伝える感覚」というのが、パンチなどにも密接に関わってきます。今回のセミナーではけっこうキャリアの長いインストラクターも大きくストライクを直されていたりしたので、これまでにはあまりなされなかったような段階のことを要求されているようでした。

それと個人的にもヴラディミアに2つほど質問をしました。
ひとつ目は「筋力を一切、使わないエクササイズについて」
去年トロントに来たときから、しばしば「ノーマッスルエクササイズ」というのを教えてもらいました。文字通り、筋力を一切使わずにエクササイズを行うものです。体幹の筋力やいわゆるインナーマッスルと呼ばれるものも一切、使いません。これを今回のセミナーでもしばしばやっていたので、システマ的な体の使い方への理解を深めるうえで、とても重要そうなのです。でもこれが昨年に初めて教えてもらって以来、今ひとつ理解できずにいたのですが、今回のセミナーでなんとなく自分なりの答えがみえてきました。それで、「筋力の代わりに血圧と骨格の構造を使う、という理解で間違いないですか?」と聞いてみたら、「その通り」との答え。「ただ、初心者に教える時には散々疲れさせたうえで教える、という手が有効だ」とのことでした。

もう一つは呼吸の使い方について。「これまで相手の呼吸を読んだり、それを使ったりする技術を学んでいませんが、ゆくゆくはそういった技術が出てくるのですか?」と聞いてみたら、「もちろん。ミカエルなんていつもやっている」との答え。この技術において大事なのは、相手の呼吸に同調しないこと、自分にとって自然な呼吸を保ち続けること、だそうです。相手の呼吸に同調してしまうと、逆に相手にコントロールされてしまうのだとか。とはいえ、これはドリルなどを通して身につける技術ではなく、システマのトレーニングを通じて呼吸への理解を深めて行くことで、自ずとできるようになる類いのものだそうです。ちなみにマッサージをする時も同じなのか聞いてみたら、「自分の呼吸をあわせる必要はない。だが相手がどのように呼吸をしているのか、認識することは重要だ」とのことでした。

そんなこんなで3日間のセミナーは終了です。情報盛りだくさんでした。

また来夏に行われる「SUMMIT OF MASTERS 2010」でも、一部スケジュールは経験者と初心者を分けたクラスが行われるとのこと。どんな内容になるのか、楽しみですね。


Tag:海外セミナーレポート  Trackback:0 comment:4 

Comment

カズ URL|ブリージング セミナー
#- 2009.11.24 Tue14:49
この3日間の内容はまさに奥義の伝授だったんですね。
是非いつかこの稽古教えてもらいたいです!
きたろう URL|
#- 2009.11.26 Thu11:09
「経験者向け」のセミナーはかなり濃ゆい内容ですよ! 今後、ちょくちょく実施されるそうなので、カズさんもぜひ参加されると良いのではないかと思います!!
あきら URL|
#- 2010.06.03 Thu19:14
久しぶりに読み返してみましたが、とても得るものが多かったです。

多謝。
きたろう URL|
#- 2010.06.06 Sun06:10
僕もちょこちょこ読み返してます。特にセミナーの内容は後で読み返すことで忘れていたことを色々と思い出すことができるので重宝してます。
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北川貴英:システマ東京主宰。08年モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより公式システマインストラクターとして認可。16年コンディショニングに特化した「INSTRUCTOR OF APPLIED SYSTEMA」に認可。首都圏を中心に各地で年間400コマ以上を担当。システマ関連書籍を多数執筆。教育機関、医療系シンポジウムなどでのセミナーや各種媒体を通じてシステマを幅広く紹介。今なお毎年欠かさず海外研修に赴きスキル向上に努める。
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